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催眠誘導の原理と実際
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今日からできる誰かを/自分を催眠に入れる方法 ふつう催眠誘導とよばれるいろんなやり方について |
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たとえば暗示で空を飛んでもらう(飛んでいるように感じてもらう)ことを考えよう。……我々の足はしっかりと床についており、目は部屋を見回すこ とができる。耳は部屋の音を拾うだろうし、三半規管は身体の傾きについての情報を脳に送ってくる。必要ならスタスタと歩き回ることだってできるだろう。移 動できれば、五感はそのたび新しい刺激を拾っていく……。
暗示に「集中」してもらうためには、そして暗示の効果を最大限に発揮するためには、他のモジュールから、イメージのモジュールや見当識モジュール
への影響を最小化すること、そして言語モジュールからの影響を最大化することである。それには当面関係のない視覚や筋肉モジュールなどは不活性化してもら
いたい。では、どうやって?
| NO LOAD | OVERLOAD | |
|---|---|---|
| 筋肉モジュール | リラクゼーション | 疲労させる |
| 感覚系モジュール | 入力を遮断する | 入力を飽和させる |
| (より高次な) 知覚・意識モジュール |
過小情報で飽きさせる | 過剰情報で混乱させる |
| 抵抗モジュール | 抵抗不要な指示 (イエス・セット) (Truism) (「当たった」予言) |
抵抗不能な指示 (ダブル・バインド) (選択の幻想) (気付かれない指示) |
上の表は、記憶用のものだ(とても簡略化してある)。
では、ひとつづつ詳しく見ていくことにしよう。最初は、ポピュラーで自分でも試しやすい、筋肉モジュールの「スイッチの切り方」についてだ。筋肉モ
ジュールについての知見は、その他のモジュールの「スイッチの切り方」を考えるときにも参考になる。
ここでの要点は、『やり方はいろいろある』ということだ。
筋肉モジュールだけでなく、他のモジュールに働きかけて、間接的に筋肉モジュールの『スイッチを切る』ことがで きる。
同じモジュールについても、いろんなアプローチで働きかけることができる。 |
まずは逆向きに考えていこう。何が筋肉を緊張させる(筋肉モジュールを活性化させる)のだろうか?
運動神経からのシグナルは、筋肉を緊張させることしかできない。筋肉を弛緩させるシグナルはない。したがって動物は、関節を曲げ る筋肉と伸ばす筋肉、対になった骨格筋を持っている。どんな動きも、どちらかの筋肉をいくらかづつ緊張させることになる。また対になった両方の筋肉が共に 緊張すれば、身体は動かない(動けない、もしくはぶるぶると震える)。
興奮を感じると、筋肉は緊張する。人類が進化してきた環境では、感情はすぐさま行動に移らなければならないことを知らせているシ グナルだったからだ。恐怖は敵や危険から逃げなければならないことを、怒りは目の前の敵やライバルと一線交えなければならないことを……、その他もろも ろ。逆にそうした必要のない状態を示す感情、やすらぎの感情は、筋肉の緊張を解くだろう。
これも同上。痛みなどの不快な感覚は、回避行動に移らなければならないことを知らせているシグナルである。回避行動の(準備の) ために、筋肉は緊張するだろう。
寒さも不快な感覚であるが、それよりも重要なのは、筋肉活動から発する熱は体温維持にかかせない熱源であることだ。人体がつくり 出す熱のかなりの部分が筋肉から生まれる。寒さは身を震わせる、つまり筋肉を緊張させ、熱をつくり出させる。他にもあるだろうが切りがないのでこれくらいで。「……」の後ろに書いたモジュールのそれぞれに働きかけることで、筋肉モジュールのスイッチができそうで ある(もちろん「……」の後ろに書いたモジュール名は、もっと詳しく書くこともできる)。
| 筋肉緊張の要因 | 事前セッティング | 明示的指示 | 直接暗示 (モジュールに直接働きがけ) |
間接暗示 (イメージ・記憶モジュールを 介して働きがけ) |
| 運動 | 力のいらない姿勢 仰臥、椅子かけ |
じっとしていてと指示 | 脱力していると暗示 | リラックスできた場面をイメージ/想起 |
| 悪感情 | 不安などを取り除く事前説明 | 力を入れて抜いてと指示 | 楽しい気持ちだった場面をイメージ/想起 | |
| 不快な感覚刺激 | 静かで眩し過ぎない部屋 やわらかいソファ等 |
目を閉じてと指示 | 落ち着いている・よい気持ちだと暗示 | よい気持ちだった場面をイメージ/想起 |
| 寒さ・体温低下 | 暖かな室温 | 温感を暗示 | 暖い場面をイメージ/想起 |
プログレシブ・リラクゼーション
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| NO LOAD | OVERLOAD | |||
|---|---|---|---|---|
| 入力を遮断する | 過小情報で飽きさせる |
入力を飽和させる | 過剰情報で混乱させる |
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| 視覚 |
目を閉じる |
一点を凝視 (新しい視覚情報は入らない) |
光源を凝視 |
|
| 聴覚 |
沈黙 |
単調な音(メトロノームなど) に耳をすませる |
||
| 触覚 |
同じ感触の持続 |
くすぐり? |
||
| バランス (内耳) |
前後左右の揺さぶり |
後倒れ |
||
| 言語識 |
同じ言葉の繰り返し(マントラなど) |
混乱技法、驚愕法 |
||
| 運動識 |
バラバラの動作 |
|||
| 社会関係識 |
隔離 |
単調な関係の繰り返し (同じ質問を反復するなど) |
過剰に複雑な関係 |
ダブル・バインド |
| 一つの感覚 への集中 |
(他の感覚モジュールへの
入力を減少) |
|||
| ブレイド法 |
解 説 |
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| 凝視 |
左手の親指、人指し指、中指の間になにか輝く物体(私は一般にランセットケース
を使う)を持ち、そして眼とまぶたに強い緊張を作り出し、物体を患者が凝視続けられるように、目から8から15インチはなれたところ、額より上の位置に持
ち上げる。 |
どんな物体でも自由に使える。あなたはここで人々が催眠としばしば結び付ける輝くぴかぴか
揺れる時計の兆候を見るだろう。ある催眠者はただ自分の指を使う。他の人は特別に作らせた物体を持っている。輝くトーチランプ、あるいは渦巻きパターンが
ある「ヒプノディスク」
などである。私は時には、輝く金属のビー玉、古い輝くカフスボタン、金属の振り子を使ったことがある。なじみのものよりも珍しいものの方がより注意を引き
つけるという単純な事実から、あなたは何か変わったものを見つけ出すために想像力を働かせたいかもしれない。 |
| 目を物体に凝視しつづけ、物体の観念に心を集中しつづけることを患者に理解して
もらわなくてはいけない。 |
正確に言うと、催眠者は通常はっきりと次のように明確に言う。「さてこれを見続けて。これ
以外は、あなたの心を空っぽにして。」目指している効果は、大脳の物体に気づいている部分以外のすべての活動のスイッチを切ることである。言い換えれば、
ブレイドはあなた自身が前のセッションでおこない、理解したことをやっている。患者の心をひとつの物や観念にある一定時間固定させつづけている。 |
|
| 目の同化調節によって、どう孔が最初は縮んで、すぐに広がり始めることを観察す
るだろう。 |
これに注意して、あなたがそれに気付くかどうか見なさい。私はいつもそれを見たとは言えな
い。たいていの他の催眠者はこれに言及しない。 |
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| 閉眼 |
かなりそうあって、波うつ動きをした後、少し離れた右手の人指し指と中指を物体
から目に向かって動かすならば、一番ありそうなことは目が震えながら、無意識的に閉じることだろう。 |
ここで活性化されているものは、貴重な目を守ることを意図する本能的な反応である。それは
目に向かった速い動きによって最も強烈に引き起こされるように私には思える。通常あなたは意識してそれを止める必要はないだろう。しかしちょっと自分自身
に試してみれば、ちょっとした意志の努力でもってそれが生じるのを妨げられる事実に気付くはずだ。悲しいことに、ブレイドは右手の指を動かす速さについて
書き残していない。あなた自身でいろいろな速度を試したいかもしれない。 本能的な閉じる反応である心の1つのシステムと、物体を見続けるという先の命令にしたがおうとする別な部分との間になんらかの葛藤が生じることに気付きな さい。ブレイドが観察した震えを引き起こすのはこの2つの間の争いであることを私は示唆する。 両手を強く組んでからその両手を離そうとする時に生じる震えと比較してもよいだろう。2つの腕がお互いに反対して戦う2つのシステムである。すこしすると 典型的には震えが始まる。 |
| 暗示 |
もしそうでなかったり、あるいは患者が眼球を動かす時には、指が目に向かって再
び動く時に、まぶたを閉じてもよいこと、ただし眼球は同じ位置に固定されていなければならず、心は目の上にある物体の観念に集中していなければならないこ
とを理解させたうえで、新たに行わさせる。通常、まぶたが震えながら閉じたり、発作的に閉じられたりすることが見られるだろう。 |
ブレイドは私たちの標準知見も体験した。すなわち人は異なっており、ある人たちはほかの人
よりも反応するのに時間がかかるということである。このような場合、彼は期待する出来事のより明確な考えを被験者に持たせて、その課題を繰り返す。実際彼
は目の筋肉の特定な反応を得るために言語的な指示を利用している。第1章で私たちが他の筋肉での振る舞いを見た現象である。 |
| 腕のカタレプシー |
もし患者が強い影響を受けているならば、10、15秒経過した後、穏やかに腕と
足を持ち上げると、手足の持ち上げられた状態が維持される傾向が見いだされるだろう。 |
この現象は時々、手足のカタレプシーと呼ばれる。それに私たちは第1章ですでに出会ってい
る。あなたはそこで、ある人々が前口上なしに、運動感覚の合図の結果としてカタレプシーが作り出されうることに気付いたはずだ。 |
| 暗示 |
もしそうならなかったならば、柔らかい声の調子で、手足を伸ばした状態のままに
することを頼みなさい。そうすれば脈拍はとても速くなり、そして時間が立つにつれて、手足はかなり硬直して、無意識的に固定されるだろう。 |
このことが私たちに教えてくれることは、人によっては運動感覚と筋肉の間に十分なつながり
がなく、一方がもう一方を活性化させないことである。その場合、ブレイドは、言語的な指示に戻った。そしてそれが概してうまくいくことを発見したのだろ
う。もしあなたがそれさえうまくいかないことに気付くならば、視覚的なシステムによるもうひとつの試みをすることができる。あたかも腕の中に鉄の棒があっ
たり、腕にギブスがはめられているかのように堅くなっていると友人にイメージしてもらうのである。 私の経験では一般的に、腕がどういうふうになるべきだという観念がどうにかして与えられない限り、腕は通常無意識的には固定されない。ブレイドのケースで は、観念は運動感覚的に最初に与えられた。もしそれがうまくいかなかったならば、彼は言葉の指示でそれを強めた。あなたが試してみる時、何が生じるかは自 分自身で分かるだろう! 脈拍が速まる理由は、他の練習で速くなった理由と同じである。腕を上に持ち上げることが、たとえ努力が自発的ではないとしても、筋肉を働かせる。足と腕の 意識的な緊張を求めただけで増大する心拍率と呼吸率を観察した第2章の終わりでの記述の効果と、このことをあなたは比較すべきである。両方ともアドレナリ ン(エピネフリン)物質の増加が同じようにあるだろう。 |
| 視覚をのぞいて、熱感と冷感、筋肉の動きや抵抗力、ある種の心的能力を含む固有
の感覚のあらゆる器官が最初、アヘン、ワイン、蒸留酒の影響で生じることのように、たいへん興奮することもまた見いだされるだろう。 |
ブレイドがそう気づいたのと同じぐらい強くこれに私が気付いたとは言えない。またほかの人
によってもこの効果は一般に報告されてはいない。しかしながら、私の分析は単純にこうである。増大したアドレナリン(エピネフリン)物質は、あらゆる神経
系の活動を高める傾向がある。ブレイドが患者にうまくやった状態では、この神経活動のスイッチはだいたい切られる。しかし例えば、冷たさに対する敏感さを
テストするために、もし彼がある特定のシステムを活性化したならば、神経系のその部分はとても強く活性化されることが予想できる。 |
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| 完全なリラクセーション |
ある時点の後に、しかしながら、この機能の高まりは、自然の睡眠の無気力よりは
るかに大きい停滞状態に続く。 |
その「ある時点」の前にどれほどの長い時間があるかははっきりしていない。けれども、その
効果は、筋肉の高い活動の時期が必然的に低い時期に続くという現象と本質的に同じである。このパターンは副腎皮質に関係する活動に対応しており、高い活動
と豊富なアドレナリン生産の時期のあと自動的に非常に低い活動のリバウンドの時期が続く。 結論として、いくつかの単純なモジュールへの働きがけをブレイドがつなぎあわせることで、ついには被験者の眼が閉じて、ほとんどのシステムがとても不活性 の状態になったことは明確なはずである。 |
| 後倒法 | 解 説 |
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| 閉眼 |
安静な状態の被術者を立たせ、目を閉じさせる。 |
外部から最も多くの情報をもたらす視覚モジュールからの入力を切るのは、容易である。目を
閉じてもらえさえすればいい。 加速度/平衡感覚モジュールの混乱をメインとする後倒法では、視覚は必要ないので、早々に退場願おう。 |
| 触覚への集中 |
両手で額と後頭部に軽く触れながら、 「いま、私の手が触っているところが分かりますね」 |
その他の感覚モジュールの入力を切っていくために、触覚への集中を使う。これは一種の
Truism(「あたりまえのこと」「自明の理」の意味)でもある。相手に触れ、相手が感じているであろう感覚を、言葉で相手に伝える。一種のバイオ・
フィードバックを言葉による描写で行っている。こうして触覚とその言語表現へのみ、被術者の意識は向けられるようになる。 |
| 予告 |
「これから私が1、2、3と三つ数えて、「はい」と言いながら両手を離すと、あ
なたは後ろに強く引っ張られるような感じがすると思います」 |
この後、被術者に起こる(と術者が期待している)現象、被術者が感じるべき(と術者が期待
している)感覚を、前もって告げている。遠回しに(しかしかなりあからさまに)「あなたは何をすべきか」と、現在の術者―被術者関係において、果たすべき
「役割」をサジェストしている。 |
| 「いいですか。いーち、にー、さーん、はい(手を離す)」 |
これ以後は、予告―実現の繰り返しが行われる。 |
|
| 暗示 |
「ほーら、倒れ始めましたね。 もっと強く引っ張られますよ。 ずーーっと、倒れていくのが分かりますね。 もう我慢できないくらい強く引っ張られますよ」 |
言葉による筋肉モジュールへの働きがけ、いわゆる観念運動動作を引き起こすための暗示を
行っている。以後、この暗示を繰り返し、「暗示にかかる」という事実を積み重ね、被暗示性を高めていく。 |
| 不安感・抵抗の除去 |
「倒れてしまってもいいんです。私がしっかり支えますからね」 |
後倒法は「後ろに引っ張られる/倒れる」という暗示と「後ろに倒れる不安」の除去とを、交
代に重ねることで、前半を構成する。 |
| 暗示 |
「さあ、もっとずーーっと、倒れていきますよ。 さあ、もっともっと強く、ずうーっと、倒れていきます。どんどん強く引っ張られていきます。もっともっと強く、ずうーっと、倒れていきます。どんどん強く 引っ張られていきます。もっともっと強く、ずうーっと、倒れていきますよ。もう我慢ができません。いいですか、ずうーーっと、倒れますよ。はい、ずうーっ と倒れます。」 |
古典催眠に特徴的な、暗示の単純な繰り返し。 後倒法の暗示は、感覚への暗示(後ろに引っ張られる)と事実の予告(後ろに倒れる)が重ね合わされている。 |
| 被術者の体が倒れてきたら、被術者の背後から両肩に軽く手をかける。被術者が自
然に倒れて来るのを邪魔しないように,最初は触れる程度の力にすること。 |
||
| 不安感・抵抗の除去 |
被術者が倒れることに抵抗を示したら、心配ないと励まし、抵抗しないようにと告
げる。 |
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| 内耳(加速度識)の混乱 |
被術者が倒れてきたら(すなわち肩に添えた手に力を感じたら)、だんだんと腕に
力を入れて,危険がないように被術者の体をしっかりと支える。 支えながら,床まで被術者の体をぐいっと寝かせていく。 |
後ろへ倒れる加速度は、通常経験しないものである。人は後ろに「ひっくり返る」にせよ、尻
餅をつき、背中を丸めて転がるように、アタマを守って倒れるからである。 |
| 腕降下法 |
解 説 |
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| 隠伏的なリンキング、スプリッティング |
(わかりやすくはっきりした口調で) 「腕を前に突き出して,手をちょうどアタマのてっぺんの高さまで上げてください。肘はまげないで,まっすぐのままです」 |
この催眠誘導テクニックでは,重力による落下を観念運動の補助に使っている。腕を上げたま
まにするには,意識的な努力が要る。逆に腕を下ろすためには,ただ重力に任せればよい。 こうして暗黙のうちに、「腕を上げる」=「意識」=「努力」=「筋肉の緊張」と,「腕を下げる」=「非−意識」=「自然に まかせる」=「筋肉の弛緩」という2つのグループをつくっていることに注意しよう。 |
| 凝視 |
「はい,いいですよ。手の先,そうですね,人差し指か中指の先を,見てください。」 |
次第に下がっていくもの(ここでは手の先)を見つめさせることは,閉瞼をうながす効果があ
るため、さまざまな催眠誘導に用いられる。 上を見つづけることは眼のまわりの筋肉に疲労をもたらす。上から下へと視線を動かすことは,瞼が降りる動きと連合しやすい。 閉瞼はもちろん視覚刺激を封じることに繋がる(視覚は五感中もっとも外部情報を獲得する感覚であるが,他の感覚よりも「ふさぐ」ことが容易なので,多くの 催眠誘導が閉瞼を取り入れている)。 |
| 予告 リンキング |
「これから私が暗示を与えると,腕がだんだん下がってきます。腕がすっかり下がると,あなたは催眠に入り
ます。」 |
さらに術者は,「腕を下げる」=「非−意識」=「自然にまかせる」=「筋肉の弛緩」という
グループに「催眠に入ること」を加えている。「意識的な努力をやめ,自然に任せることで,催眠に入ることができる」と,言
外に語っているのである。 |
| 不安感・抵抗の除去 バインド |
「暗示の効き目が現れるまでは,少しですが時間がかかります。暗示をはじめてしばらくすると,腕が動き出
そうとしはじめます。そのことを強く意識したり,何故なんだろうと考える必要はありません。ただ動くのにまかせて下さい。動いても手の先を見つづけて下さ
い。目が閉じてきたら,そのままつぶってもかまいません。」 |
この誘導は,いくつかのバインドの方法を用いている。(1)上げた手は,いずれにしろ下げ
るしかない。今下げようが,後で下げようが,いずれにせよ,それは催眠と結び付けられている。(2)いますぐにせよ,あとにせよ,いずれにせよ暗示は効果
を表すとしている。 |
| スプリッティング |
(口調,声色を変える。少し低めの声でゆっくりと) 「それでは,手の先を見つめてください。 これからあなたの右腕に暗示していきます。」 |
ここでもスプリッティングの方法も用いている。 暗示する「相手」を「あなたの右腕」としているのが,それである。 術者は,「あなた(の意識)」と,それ自体意識をもたない「あなたの右腕」を,あたかも別物のように分けて取り扱う。 右手が暗示に従い動くこと,あるいは暗示にもかかわらず動かないこと,についての責任やあせりを,「あなた(の意識)」に帰せないためであり,意識抜きで の動き(=観念運動)に焦点を当てるためでもある。 |
| 予告 メタファー |
「暗示の言葉をくりかえすうちに, (スピードをさらに落として)ゆ っ く り と, 右手が降りて行きます 腕が重くなるのを感じるかもしれません」 |
「下がっていく」「降りていく」という言葉は,ただ腕の位置が変わることだけでなく,意識
のモードが変わること,たとえば「無意識や下意識に降りていくこと」,を象徴してもいる。 |
| 暗示 |
「ゆっくりゆっくり、手が動き始めるのを感じましょう。 さあ、ゆっくりゆっくり、手が動き始めます 手がゆっくりゆっくりと降りていきます………(くりかえし)」 |
腕が下がることは,(1)暗示に従うこと(2)筋肉の弛緩(3)視覚刺激の停止,などをも
たらす。 (a)一つの行為が複数の意味=機能をもち,(b)先行するより些細な現象が,連鎖的に(雪だるま式に)より大きな現象に結びついていくことに注目しよ う。 これらは催眠アプローチのあらゆる場面,あらゆる応用に通じる基本原理である。 |
| 「さあ、手はすっかり、下に降りました。 余計な力が全身から抜けて、あなたはすごくリラックスしています。 |
手の動きが、被術者の抵抗と従順、トランスに入ったタイミングなどを教えてくれるのが、こ
の催眠誘導のよいところである。 したがって催眠深化に入るタイミングを見のがすことはないだろう。 |
「古典催眠」と「現代催眠」何かを凝視させたり(凝視法)、あるいは被術者を立たせて後ろに倒したり(後倒法)といった催眠誘導は、今時ステージ催眠でもないと、お目にかかれな い。「催眠をかけますよ」「催眠をかけてますよ」といったしぐさ・ポーズが、舞台(見せ物:ショー)では不可欠な要素だからである。 この「かける・かけられる」 といったタイプの催眠を(エリクソン以降の会話中心のものを「現代催眠」というのに対して)「古典催 眠」と呼ぶことがある。実のところ、「催眠誘導 induction 」「催眠深化deeping 」のあと「催 眠暗示suggestion 」を与えると言った段階は、この「古典催眠」のものである。現代催眠では、これらの段 階は混ざりあっている。あえて分ける必要がほとんどない。 「古典催眠」のこれら諸段階は
「古典催眠」があまり用いられなくなったのには(日本ではまだそうでもないが)、いくつか理由がある。
催眠術 (おもにテレビでのおもしろおかしい ステージ催眠)の「普及」によって、「振り子を持たされたり、時計を見つめさせられたりなんて、まっぴらごめんだ」という人が増えてしまった。
「医師―患者」間の上下関係が逆転し、(とくにアメリカでは)医師は今や医療訴訟におびえながら治療することに なった。また、密室で心理療法家が患者に触れることは、いらぬリスク(セクハラならぬドクハラ訴訟)を高めることになる。患者の方も、必要もないのに、医 者に触れられるのをよしとしなくなった。
「古典催眠」は、治療に必要な「催眠深度 」を得るために時間を必要とする(たとえば自動書記を行うには、 深催眠・人格催眠の段階まで催眠が深くなければならないとされた)。1回の面接で十分な催眠の深さが得られない(多くの場合は得られない)場合は、数回の 面接をつかって被術者に催眠に入ることに慣れてもらう必要がある(これを「催眠の訓練」という)。 |
「あなたは〜になる」と言明して、そのとおりになると、相手はあなたの言葉に何かしらの力を感じるかもしれない(少なくとも手強 い「疑い」という抵抗は小さくなるだろう)。予言は、厳密には事象に言明が先行しなければならないが、わずかの時間差なら、事象に遅れても、同様の効果が 得られる(Truismの力はここに存する)。
被催眠性テストと呼ばれるものは、実際には催眠誘導の諸手段を「反応しやすい」順に並べたものに他ならない。催眠誘導 の手段は、次第に難しいものになるが、それゆえに、「どの段階までは反応した」という記録がそのまま被催眠性を測る尺度として用いられてきた。
もうひとつの意義は、誰もが「反応しやすい」順に催眠誘導を行うと、少なくとも最初のいくつかは、連続して被験者の反応が得られることになる。これは 「私も催眠にかかり得るのだ」という確信、我々にとっては抵抗の解体につながる。これはこのまあ、催眠誘導のプロセスを構成する。
下の成瀬・上武の「催眠反応表」*は、催眠誘導の手続きと催眠深度の判定基準(催眠尺度=被催眠性テスト)を統合した、古典催眠 のひとつの完成形態である。
従来から知られていた「催眠深度」と「暗示反応」の関係、いわゆる「催眠の度合いが深まれば深まるほど、覚醒暗示→運動的催眠→知覚的催眠→記憶的催眠 →後催眠暗示の順で可能となる」も、この表の縦軸に盛り込まれている。
より段階の低い暗示から与えていき、反応をみながら、より高い段階の暗示へ進んでいくとよい。
*催眠反応表(催眠尺度)
段階
暗示
反応の程度
0
1
2
3
4
覚醒暗示
後倒
閉瞼
腕降下
腕移動(合掌)
腕浮揚
無反応
無反応
無反応
無反応
無反応
動揺感
垂下感
降下感
動揺感
浮揚感
動 揺
まばたき
動 揺
動 揺
動 揺
可停止
半 眼
半降下
移 動
半浮揚
転 倒
閉 瞼
降 下
合 掌
浮 揚
運動的催眠
閉瞼硬直
腕不動
指固め
腕硬直
腰硬直
無反応
無反応
無反応
無反応
無反応
硬直感
硬直感
硬直感
硬直感
硬直感
弛 緩
弛 緩
弛 緩
弛 緩
弛 緩
不 能
不 能
不 能
不 能
不 能
積極的
積極的
積極的
積極的
積極的
知覚的催眠
幻味
幻嗅
幻触
幻聴
幻視
無反応
無反応
無反応
無反応
無反応
予想感
予想感
予想感
予想感
予想感
想 像
想 像
想 像
想 像
想 像
心 像
心 像
心 像
心 像
心 像
幻 覚
幻 覚
幻 覚
幻 覚
幻 覚
記憶的催眠
年齢忘却
姓名忘却
年齢退行
負の幻覚
幻色・残像
無反応
無反応
無反応
無反応
無反応
忘却感
忘却感
追 想
困 難
予想感
弛 緩
弛 緩
想像退行
部分知覚
無残像
不 能
不 能
退 行
無 視
同 色
積極的
積極的
積極的
無認知
補 色
後催眠
後催眠暗示
後催眠健忘
無反応
無健忘
強迫感
忘却感
意図再興
一部健忘
部分遂行
大部分健忘
遂 行
健 忘
初出:上武正二,成瀬悟策(1956)「双生児法による被催眠性の研究」『双生児の研究』第2巻, pp.199-204
ただし上の表は、改良されたもの(成瀬悟策(1968)『催眠面接法』p.419 「標準催眠尺度(成人用)」)
被験者の反応をフィードバックすることは、「私も催眠にかかり得るのだ」という確信を強めることになる。
「あたりまえのこと」「自明の理」の意味。実況中継を想像するとわかりやすい(描写的マッチングと言われることもある)。術者 は被術者を観察した内容を言葉にする。たとえば「あなたは椅子に座っていますね」「足の裏にやわらかなカーペットの感触を感じます」「エアコンの男がかす かに聞こえます」とこんな風に‥‥。逆に「あなたはいまやすらぎを感じています」というのは、 Truismではない。そんなことは外から見てもわからないからだ(「なんで俺のことを決めつけるんだ」と抵抗されるかもしれない)。
Truismはあえて術者に都合の良い「決めつけ」を避け、自明なことだけを話すことようにする。こうすることで被術者の抵抗を減じる。この点で「イエ ス・セット」としばしば混同される。
もうひとつは、被術者の状態をフィードバックすることで、被術者の注意の範囲を狭めることである。被術者の注意はあちこちに散っている。そこに、例えば 「足の裏にやわらかなカーペットの感触を感じます」と言うことは、被術者の注意を「足の裏」の「触覚」に集中させることになる。これ自体が、催眠誘導のひ とつのプロセスになる。
面接中に,この質問をすればイエスという肯定的な答が返ってくるだろう、と思われるような一連の質問をすること。
例えば、セラピストがクライアントにたいして「あなたはある問題のために,私の助けを借りに来られた、そうですね?」「私はセラピストです、正しいです か?」という質問をする、など。そして、このような質問をいくつかした後にその人に同意してもらいたいような大事な質問を投げかけるのである。「そして, あなたはトランスに入りたい、そうじゃないですか?」。
これは相手(被催眠者/クライアント)の中に同意(イエス/はい)の習慣性(同意のセット)を作り出す技法であり、「イエス・セット」と呼ばれる。エリ クソンが用いた技法。
エリクソンはよく「いますぐトランスに入りたいですか、それとも後で入りたいですか」と尋ねた。エリクソンは選択を持ちかけて いる。しかし、いずれにせよトランスに入ることを前提にしている。どちらを選んでも、相手はトランスに入ることを了承することになる。
この洗練された方法の反対を考えてみよう。「さあ、トランスに入りなさい。いずれにせよ、あなたに選択の余地はありません」。「私に選択の余地がない だって?いいや、私にはお前の言葉にしたがわないという選択があるぞ。だれがトランスになど入るものか」。
自由意志は、たとえ幻想であれ、人間にとって大切なものだ。自らの意思で選んだものであれば、それを遵守する可能性はとても大きくなる。「選択の幻想」 は、人に選択する機会(自由意志を発揮する機会)までは奪わない。それは術者、被術者双方が、尊重されるやり方である(たとえ幻想であっても)。
ダブル・バインドとは、広義には「従うことも、従わないこともできない指示」である。(1)その支持は論理的に矛盾し合った (両立し得ない)二つのメッセージを含み、(2)しかも指示者ー被指示者の間には密接な関係が存在し(だからこそ、指示そのものをうっちゃることができな い)、(3)しかもそうした関係パターンが自己生産的に持続する。
ダブル・バインドは無論、病的な関係である。しかし「医原性疾患があるんなら、医原性治療があってもいいじゃないか」といったエリクソン、本来病的なダ ブル・バインドに対して、治療的ダブル・バインドというのを編み出し、実践した。
医者やセラピストが出す指示は、しばしば患者やクライアントから抵抗される。無視される。実行されない。水の泡。しかし、エリクソンは「抵抗する患者な んていない。頭の固い治療者がいるだけだ」とも言った。やわらかアタマで、エリクソンは、どうしても逃げられない治療的指示としてダブル・バインドを使っ た。たとえば、こんなの、だ。
「先生、ふるえ(その他、症状なら、なんでもいい)が、どうしてもとまりません」
「わかりました。では、もっとふるえ(その他、症状なら、なんでもいい)を出してください」
エリクソンのこの指示は、治療的ダブル・バインドになっている。つまり、この指示に従おうとすれば、ふるえ(などの症状)をわざと(意図的に)出さなけ ればならない。今まで不随意だったものを、意識のコントロール下におくことである。
また、この指示に逆らおうとすれば、すなわち、ふるえをとめなければならない。これは万事解決である。
したがって、指示にしたがっても、従わなくても、問題は解決の糸口をつかむ。こうした指示の出し方をエリクソンは行った。
これは結構応用がきく。
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